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就業規則活用のヒント《年次有給休暇編》

就業規則活用のヒント《年次有給休暇編》


 年次有給休暇とは
 年次有給休暇(以下、「年休」といいます。)の趣旨は、毎年一定日数の有給休暇を与えることによって、従業員の心身の疲労を回復させ、健康で文化的な生活を享受させることにあります。
 「休日」が、最低週に1回は与えなければならない(労働基準法第35条)「義務」としての休息であることに対し、年休は、従業員の希望する時期にまとめて確保できる「権利」としての休息であることに大きな意義があるといえるでしょう。
 また、年休は請求によって、労働契約上の従業員の労働義務を消滅させるというものですので、休日や休職など元々労働義務がない日については、年休を請求することはできません。

 なお、従業員が保有する年休の権利は、法定の要件(いわゆる出勤率80%要件)を満たした場合は法律上当然に発生するものであって、使用者の許可・承認という観念を入れる余地はない(S48.3.6基発110号)とされています。
 従業員が年休の取得時季を指定(「時季指定権」といいます。年休の時季を指定することを、一般に「年休の請求」などといいます。)したことに対し、事業の正常な運営を妨げる場合を除いては、使用者はほかの時季に変更すること(「時季変更権」といいます。)はできず、使用者が時季変更権を行使しない限り、従業員が指定した時季の労働義務は自動的に消滅することになります。
 また、使用者は従業員の年休請求を拒否することはできず、年休取得を理由とした不利益な取り扱いは禁止されています(労働基準法第136条)。


 

 従業員から半日または時間単位の年休を請求された場合は?
 近年は、半日単位で年休を付与する企業が多くなりましたが、年休は1日単位の付与が原則ですから、従業員から半日のみ取得したい旨の請求があっても、使用者はそれに応じる義務はありません(S24.7.7基収1428号、S63.3.14基発150号)。
 なお、従業員が半日単位の年休を希望して、使用者が承諾した場合については、半日単位で付与しても差し支えありません。

 また、平成22年度改正の労働基準法において、労使協定により1年に5日を上限として時間単位の年休付与が認められることとなりましたが、1日単位の付与が原則的な取り扱いであることに加え、時間単位で付与するに当たっては、出退勤や休暇時間の管理が煩雑となるといった運用上のデメリットが少なくありません。
 「育児や介護などで利用したい。」といった従業員のニーズが増加しつつありますが、中小零細企業が時間単位の年休制度を導入する際には、従業員の意見や運用方法等を勘案の上、慎重に検討されることをお勧めします。



 繰越分の年休消化について
 従業員が年度内に全部取らなかった未消化の年休については、消滅時効が2年と認められているため、翌年度へ繰り越して翌年度の新規付与分と併せて請求することが可能(労働基準法第115条、S22.12.15基発501号)です。
 前年度の繰越分と当年度の新規付与分の年休請求権を保有するときの消化順序については、繰越分から消化するものとして取り扱う企業が多いと思いますが、どちらから消化するのかについては、学説上の見解が分かれており、少なくとも法律上の定めはありません。 よって、弁済の充当(民法第489条第1号、第2号)を根拠とした考えに基づき、新規付与分から消化するものとして就業規則等に定めることは可能と考えられます。
 企業としては、年休を新規付与分から消化することで、年休取得にかかわるコストの軽減効果が期待できますが、繰越分から消化することがすでに慣例化している企業が、年休消化の順序を変更する場合には、労働条件の不利益変更に該当しますので、原則として従業員との合意が必要(労働契約法第8条、9条)となるでしょう。



 従業員の年休請求に備えましょう
 基本的なことですが、通常の従業員とパートタイマー(週の所定労働時間が30時間未満であって、週所定労働日数が4日以下または年間所定労働が216日以下の者)に対する法定の年休付与日数は異なりますので、従業員を採用する際には、どちらに該当するか明確にしておかなければなりません。
 また、1日の労働時間が固定化していないパートタイマーや変形労働時間制の適用者については、年休を取得したときの賃金が問題となることがありますので、付与日数のほか年休取得に係る賃金の取り扱いについても、労働契約書や就業規則等で明確にしておきたいものです。
 なお、年休取得に係る賃金の額については、@平均賃金、A所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、B健康保険法の標準報酬日額に相当する金額(Bは労使協定の定めが必要です。)のいずれかを選択して就業規則等へ定めることとされています(労働基準法第39条第6項、S27.9.20基発675号、H11.3.31基発168号)。

 ところで、年休取得に係る経営者の懸念事項として、年休取得に関する金銭の負担、休暇中の労働力の確保・調整等がありますが、金銭面については、従業員へ支払う給与や社会保険料等のほかに、年休取得に係る賃金分もあらかじめ人件費として確保しておく必要があるでしょう。
 労働力については、急な代替要員の確保は困難であることから、従業員に対し事前の年休申出を促すよう、就業規則等に「年休を請求するときは、少なくとも▲日前までに申出すること」などと定めておくことをお勧めします。
 年休の申出時期に関しては、「就業規則において2日前までに年休請求の申出を求めることは合理的」として年休の申出時期に一定の制約を設けることを認める判例(電電公社此花電話局事件 S57.3.18最小判)があります。必要以上に長く設定することは違法と解される可能性がありますが、事前に年休の申出を求めること自体に問題はありません。
 また、急病で出社できない場合など、やむを得ない事情で申出が遅れることもあるでしょうから、年休の申出時期を定めるに当たっては、従業員への配慮も勘案して、設定することが望ましいでしょう。
 なお、単に人手不足という理由だけで時季変更権を行使することはできないと考えられていますで、特に小規模な企業では、上記の対応だけではなく、年休に関する適切な理解と準備が重要といえそうです。



続きはこちら >>> 『就業規則活用のヒント《年休編A》』


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文書作成日:2011/05/30

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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