お役立ち情報
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就業規則活用のヒント《健康診断編》

就業規則活用のヒント《健康診断編》


 健康診断にかかわる使用者の実施義務
 いわゆる定期健康診断等については、労働安全衛生法(以下、「安衛法」という。)によって義務化されており、主に以下の事項が定められています。
 使用者は、従業員の安全等を確保し、また従業員自身に健康保持・回復の意識を促すためにも、就業規則等に必要な事項を定めることが望ましいといえます。

■ 健康診断の実施
 常時使用する従業員については、1年以内ごとに1回、定期健康診断を受診させることになっています(安衛法第66条第1項)。
 特定業務従事者、海外派遣労働者、有害業務従事者等については、定期健康診断のほかに法令に定めた時期に受診することが義務付けられています。

■ 健康診断結果の通知
 従業員自らが自主的に健康管理に取り組めるよう、健康診断を受診した従業員に対し、健康診断の結果を通知することになっています(安衛法第66条の6)。

■ 医師等の意見聴取等
  健康診断の結果において、異常の所見がある従業員を対象に、その従業員の健康を保持するための必要な措置について医師等から意見を聴かなければなりません(安衛法第66条の4)。
 所定の項目に異常の所見がある従業員に対しては、労災給付の二次健康診断の受診を勧奨します。
 また、特に健康保持に努める必要がある従業員に対して、医師又は保健師による健康指導を行うよう努めることになっています(安衛法第66条の7)。

■ 健康診断実施後の措置
 医師等の意見を勘案して、その必要があると認められるときには、従業員の実情を考慮した上で、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を行う必要があります(安衛法第66条の5)。

■ 健康診断結果の記録
 会社は従業員の健康状態を把握しておく必要があることから、その結果を5年間保存することになっています(安衛法第66条の3、第103条)。


 


 健康診断を受診しない者に対する受診命令の可否
 安衛法は、従業員に対し健康診断の受診義務を定めています(安衛法第66条第5項)。
 また従業員には、労働契約上の自己保健義務が付随していると考えられており、従業員は自らの健康を保持し回復に努める義務を有しているといえます。
判例においても、「従業員は労働契約上、健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があり、合理性・有効性を有する場合には当該業務命令は有効である。」(電電公社帯広電報電話局事件 S61.03.13 最高裁1小判)と判事しており、企業の安全配慮義務の履行を目的としたものである限り、従業員は使用者の受診命令を拒否することはできません。
 健康診断の受診や医師への再検診等の実効性を確保する上からも、使用者の受診命令や従業員の受診義務等に関する事項は、就業規則等に定めておきたいものです。
 なお、就業規則等に健診受診の定めがない場合でも、「専門医の診断を受けるよう求めることは、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置」として労働者の受診義務を認めた判例(京セラ事件 S61.11.13 東京高裁判決)がありますので、当該受診が合理的で相当なものであれば、受診命令は有効と考えられます。

 健康診断の受診率が低い又は毎年受診しない従業員がいる事業所は、健康診断の必要性を周知し、従業員に対し理解と受診を促進することが肝要です。
 前述の電電公社帯広電報電話局事件では、受診命令に違反したことを理由とする懲戒処分(戒告)は適法と認めていますので、再三の受診命令に従わない従業員に対しては、就業規則に懲戒事由を定めて適用することも検討すべきでしょう。
 なお厚労省は、労働衛生管理上の必要性に乏しいことなどを理由に、使用者は従業員に対し、HIV検査は行わないこと(「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」H07.02.20 基発75号)と規制を設けています。
 すべての受診命令が認められるとは限りませんので、受診命令は定期健康診断など合理的な理由に基づくものに限定するよう留意しましょう。

 ところで使用者は、上述の通り従業員の健康状態を把握する義務を負っていますが、医療機関によっては個人情報保護の観点から健康診断の結果を会社ではなく直接本人へ通知するケースがあります。
さらに、従業員が使用者指定外の医療機関で自主的に受診することも想定されますので、従業員に対して受診結果の提出を義務化し就業規則に定めておくといいでしょう。
 また、企業が健康診断結果の記録を行うに当たっては、管理者や取扱者を限定するなど従業員のプライバシーに配慮した対応が望まれます。


 

 出来ることから始める健康保持・回復の取り組み
 使用者には、労働者に対し労働契約上の安全配慮義務が課せられており(労働契約法第5条)、健康診断は当該義務を履行する上で、最低限必要な措置と考えられます。
 さらに実務上は、安全衛生管理体制の構築や労働時間の削減など積極的な措置を講じることが望まれるところです。
特に長時間労働が恒常化している事業所では、職場環境の整備を速やかに進める必要があります。
 中小零細企業の場合は、実現に時間やコストが要することも懸念されますが、使用者にとって労働契約上または企業リスクを回避する上で、欠かすことのできない取り組みといえます。 企業の規模や事情等に応じて、まずは可能な取り組みから始めるといいでしょう。

 なお使用者には、1月当たり100時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる長時間労働者からの申出があったとき、医師の面接指導の実施が義務付けられています(1月当たり80時間超の場合は努力義務)。
さらに、面接指導を実施した医師から意見聴取し、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮など必要な措置を講じるほか、医師の意見の衛生委員会等への報告その他の適切な措置を講じることになっています。
 使用者はこれら円滑な対応を図るためにも、産業医や衛生委員会等を上手に活用したり、従業員が面接指導の申出をしやすい体制を構築するなど、必要な準備を進めておきたいものです。


 

 増加傾向にある過重労働を起因とした労災請求
 過重労働が原因とされる脳・心臓疾患の発症、過労死および過労自殺が社会問題化する中、当該労災請求の件数は相変わらず高い水準で推移しています。
 労災の認定に当たっては、精神的・身体的に著しい負荷若しくは作業環境の劇的な変化が生じた場合、または短期間に精神的・身体的に過重な負荷が認められる場合のほかに、恒常的な長時間労働等が長期間にわたって行われていたなど過重な負荷が認められる場合には、該当する可能性が高くなります。
 一般に発症前の労働時間を踏まえて、業務量、業務内容、勤務形態等の負荷要因を客観的・総合的に検討・判断されることになります。 特に、発症前1か月間に概ね100時間又は発症前2か月間〜6か月間のいずれかの期間にわたって、1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いとされています。

 また昨今は、精神障害等の労災請求件数が増加傾向にあります。
 精神障害等の労災認定については、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」等に基づいて判断されますが、判断要因には仕事の負荷だけでなく、職場内での対人関係の変化やトラブルによる心理的負荷も含まれています。
 使用者には、セクハラやパワハラ、メンタルヘルスなどに関する具体的な対策が求められているところです。

 過重労働が原因で、従業員が過労死または重度の疾病に罹患した場合には、企業責任が問われることが少なくありません。 それゆえ企業は、民事損害賠償の請求を受ける可能性があります。
 業務との関連性などのほかに、企業が従業員の健康障害を防止するために必要な措置を講じたのか、つまり安全配慮義務を如何に履行したのかについても、過失割合等を検討・判断する上で重要なポイントとなるものと考えられます。
 使用者は、労働契約上、従業員に対する健康保持義務、安全配慮義務等が課せられていることを認識するとともに、企業リスク回避の観点からも、健康診断の実施等はもとより適切な措置を講じていくことが必要といえるでしょう。


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文書作成日:2011/08/22

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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