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就業規則活用のヒント《休職編》

就業規則活用のヒント《休職編》


 休職制度とは
 経営者が活用したい就業規則の規定のひとつに「休職制度」があります。
 休職制度とは、私傷病(一般に、業務外で生じた病気やけが)、出向、公職の就任等の事情によって、通常の就労が困難となった従業員に対して、一定の期間就業義務を免除したり就労を停止させる一方で、休職期間中は従業員としての身分を保障する制度です。
 ここでは、休職事由として最も多い私傷病による休職に絞って確認していきたいと思います。

 私傷病による休職制度については、休職期間が満了するまでに回復の目途が立たず、労務の提供ができないと判断した場合には労働契約を解約する旨を定めるのが一般的です。
 ここで重要なポイントは、休職期間の満了時における退職事由は、いわゆる「解雇」(使用者が一方的に労働契約を終了すること)ではなく、「自然退職」(休職期間満了を以て、労働契約が自動的に終了すること)とする就業規則の定めが一般に認められていることです。
 解雇の場合には、使用者は労働基準法第20条の解雇予告または解雇予告手当支払いの義務を負いますが、自然退職の場合は、当該義務は負いません。 また、休職制度の内容や運用上の取り扱いなどが適正なものであれば、解雇権濫用等の問題が発生する可能性も低くなると考えられます。



 私傷病が原因で労務不能となったとき解雇はできるのか
 業務上の疾病により労務に服することができないときは、その療養のために休業する期間およびその後30日間については、従業員を解雇することは法律で禁止されています(労働基準法第19条)。
 それでは、私傷病により労務に服することができないとき、「就労不能」などを理由に当該従業員を直ちに解雇することは可能なのでしょうか。
 そもそも私傷病によって長期にわたって就労できないということであれば、労働契約に基づく労務提供義務に反しますので、解雇事由に該当するものと考えられます。
 しかし、本人に就労の意思があるにもかかわらず、解雇を回避するための措置を何ら講じずに、直ちに解雇した場合には、客観的に労働能力が喪失しているなど特段の理由がある場合を除いて、解雇権の濫用とみなされて解雇は無効という考え方が一般的です。
 そうすると企業は、不利益の少ない他の措置を講じなければならず、仮に当該措置を講ずるに必要な期間、雇用の維持に努めたとしても、いずれは復職か退職か判断を強いられるときが来ます。
 休職制度は解雇を回避する措置のひとつですから、上記のような企業リスクを最小限に抑えるためにも、就業規則に必要な事項を定めておくことが有効であり必須といえるでしょう。
 少なくとも、安易な解雇が原因で、無意味な労使トラブルを引き起こすようなことだけは避けたいものです。
 なお、休職制度は、法律上は必ずしも就業規則に定める必要はありません(※¹)が、休職制度の定めがない場合は、本人の合意がない限り、使用者は原則として休職を命じることはできないとの見方が一般的です。


(※¹)
休職制度を労働者すべてに適用される定めとする場合には、就業規則に定めなければなりません。(労働基準法第89条第10号、S25.1.20基収3751号)



 休職満了時における復職の可否
 さて、休職制度を就業規則に定めた場合、その内容が合理的であって従業員に周知したときには、その休職制度は労働契約の内容となります(労働契約法第7条)が、休職制度が定められていることを根拠に、休職期間満了時における労働契約の終了が必ず認められるというわけではありません。
 ここで主に問題となるのが、休職満了時における復職可否の判断です。
 例えば、主治医と産業医の復職に関する診断内容が異なるときや、休職前の業務はできなくても他の業務ならできる場合などは、復職か退職か判断に迷うケースが実務上でてきます。
 最近の判例では、休職期間満了時において、休職前の業務に就く状態に至ってなくても、相当の期間内に原職に復帰することが見込まれて、職務転換や配置転換等が可能な場合には即時退職とする取扱いは無効とする立場をとるものが増えています(※²)ので、回復の見込みによっては休職期間延長の措置を講じるなど、今後はケース・バイ・ケースで慎重な判断が求められることになるでしょう。


(※²)
他の業務への配転の可否については、「労働契約上、職種の限定がない場合は、労働者が配置される現実的可能性があるほかの業務での就労が可能であり、その提供を申し出ている場合は、復職は可能」と判断している判例(片山組事件 H10.04.09 最高裁1小判)があります。



 多様化する休職に備えて
 近年では、うつ病などの精神疾患に罹患する従業員の増加に伴って、休職の実態が多様化しており、大企業では復職支援制度を導入するなど、実態に対応した方策が講じられています。
 また企業には、安全配慮義務が課せられています(労働契約法第5条)ので、復職後の就労に当たっては慎重な対応が求められます。
 中小零細企業では、配置転換や復職支援などの大企業と同等な対応は困難かと思いますが、まずは産業医を選任して積極的に活用するなどといった、実務的に対応可能な対策から取り組んでいくことが望まれます。
 少なくとも、就業規則には以下の事項は定めておき、不測の事態に備えたいものです。

≪定めておきたい主な休職に関する事項≫

  • 休職に該当する具体的な事由および休職の期間について
  • 休職事由に該当した際の使用者の休職命令行使について
  • 私傷病休職者に対する使用者指定の医療機関受診義務について
  • 休職中の賃金等の取り扱いについて
  • 復職の要件および復職判断にかかわる休職者の協力義務について
  • 復職後の業務、賃金など労働条件について
  • 復職後に同一の事由で休職する際の休職期間の取り扱いについて
  • 休職期間満了時の取り扱い、休職期間延長の有無などについて

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文書作成日:2011/05/06

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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