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未払い残業代問題と解決のヒント

未払い残業代問題と解決のヒント



●残業代の削減対策
 残業代の支払能力に課題を抱えている企業は、法令遵守の対策と並行して、残業代の削減対策も併せて検討しなければなりません。以下に幾つか残業代削減対策の概要をご紹介します。

  1. 残業代の負担額を知る
     現状発生している残業代を把握していない場合には、まず企業が負担すべき金額を認識することから始めます。
     中小零細企業の経営者の多くが、残業代の支払いに大きな負担感を感じていることは確かですが、サービス残業を行っている企業は、そもそも残業代は支払わないことが前提となっていたり、給与の支払額ははじめから固定的費用として捉えていることが多いため、現状の残業代の負担額を把握していないことが少なくありません。
     企業が負担すべき金額を知ることは、今後の改善対策を検討する上で重要な意味を持ちます。
     労働時間数についても同様です。労働時間数を把握することは、労働時間(残業時間)短縮の意識を喚起することに繋がります。
     なお負担額については、残業代だけではなく付随して増額が見込まれる社会保険料や雇用保険料等についても、併せて検証しておくといいでしょう。
  2. まずは労働時間の短縮から
     残業代の削減については、結果的に企業全体のコスト削減の問題として取扱うことが少なくありませんが、ここでは「残業代」と「労働時間」の問題解決に絞ってご紹介します。
     残業代と労働時間は表裏一体の関係にありますので、残業代の削減だけに焦点を当てた場合には、「残業時間の短縮」、基本給などの「賃金の引下げ」のいずれか、若しくは両方を実施するしか方法はありません。
     しかし、重要な労働条件のひとつである「賃金」を安易に引き下げることは、法令上も信義上も問題があります。未払い残業代の問題解決に当たっては、残業代と労働時間の両面から対策を検討する必要がありますが、まずは労働時間(残業時間)を短縮することはできないか、検討することから始めましょう。
  3. 労働時間短縮の対策案
     実際に労働時間の短縮対策を講ずるに当たっては、あらかじめ、業務の進め方、営業時間と労働時間の関係、従業員の雇用形態、繁忙と閑散の時期・時間帯などを調査・分析されることをお勧めします。分析の結果、これまで気がつかなかった無駄な労働時間や業務効率化のヒントが見つかる場合があります。
     また、あらゆる方策を組み合わせて実践することで、労働時間(残業時間)短縮の効果拡大やワークライフバランスなど従業員の福祉の向上へ繋げることが期待できます。
     なお、長時間労働が慢性的に続いている企業については、脳・心疾患等の疾病の発症や当該疾病発症に伴う労使トラブルの危険性もありますので、メンタルヘルスに関する措置も併せて講じることが肝要です。
     具体的な労働時間(残業時間)の短縮対策案としては、「経営者と従業員の意識の改善・目的の共有化」、「社内体制の整備(責任者の明確化、チェック体制の確立など)」、「社内制度の改善(残業命令・禁止制、申告許可制など)」、「社内周知の徹底(従業員に対する指導・周知、社内回覧など)」、「法令に基づく労働時間制度(変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制など)の活用」、「雇用形態の改善(短時間勤務制度や短時間正社員制度の導入・活用など)」などが考えられます。
  4. 賃金(制度)の改定は慎重に
     労働時間(残業時間)の短縮などの必要な措置を講じたにもかかわらず、残業代の削減効果が得られない場合や企業の存続にかかわるようなやむを得ない事情がある場合には、賃金(制度)の改定を検討しなければならないことがあります。
     賃金(制度)改定の方法は幾つか考えられますが、本件では総額人件費をコントロール出来る仕組みを導入して残業代を抑制することに主眼を置くことが重要なポイントとなります。
     一方で、安易な賃金(制度)改定は単なる賃金の引き下げになりかねないので、従業員のモラール低下や新たな労使トラブルの火種とならないよう、賃金(制度)改定の必要性、労働法令・判例の理解、企業・従業員双方のメリット・デメリット、その他の留意事項等を十分勘案の上、慎重に進める必要があります。
     なお、賃金(制度)の引き下げは労働条件の不利益変更に該当しますので、原則として労働者の合意が必要となります(労働契約法第8条、第9条)。
     賃金(制度)改定の方策としては、「賞与制度の活用による成果反映と年間人件費のコントロール」、「定額残業代の活用による残業代の平準化」、「抜本的な賃金制度等の導入・改善」などが考えられます。
  5. 終わりに
     さて、未払い残業代の問題は監督署の是正勧告、労使トラブル等が発生することによって顕在化するわけですが、当該問題発生の根底にはそれなりの理由があることを忘れてはならないと思います。
     サービス残業問題に限らず、労働問題が発生し易い企業では、従業員の不満が蓄積するような組織風土が根づいていることが少なくありません。仮に問題が発生しなくても、そのような企業には、企業の成長・発展を担う優秀な従業員は定着しないでしょう。
     企業が健全に発展していくためには、労働問題に陥らない雇用環境を構築することが最も重要であり、最善の予防策であることはいうまでもありません。

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文書作成日:2010/10/28

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。 

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